株式会社マルニさま

代表取締役社長 河野康志氏

■ 昨今の印刷市場に鑑み、枚葉印刷にすべてのリソースを集中することにしました。
■ さまざまな工程に潜むボトルネックを「ミューパイルジョガー」で解消しています。

昭和18(1943)年の創業以来、地元官公庁や企業、学校などから総合印刷会社として厚い信頼を集めてきたマルニ。ここ4、5年は、小ロット短納期ものの受注増加に伴い、輪転機から枚葉機へと社内リソースのシフトを進めている。2017年以降、工場の新築・リフォームを進めるとともに、プリプレスや後加工のシステムをほぼ一新した。一方で、中核となる枚葉印刷部門はアフターコロナの市場動向をにらみつつ、枚葉紙の流れの徹底した効率化を進めている。その重要なシステムの一つとして2019年に、紙積み中に静電気除去エアーをブローできる「用紙最適化装置」を搭載した反転高積紙揃機「ミューパイルジョガー」を導入した。これにより、作業者の労力削減や枚葉機の停止回数減少に大きく寄与したが、独自の使用方法も見いだした。河野康志社長は同機導入から2年半ほどが経過した現在、「見えないところで貢献している。効果は狙い以上だった」と話している。

 

■ 枚葉印刷への事業シフト ■ IGASでのミューテック機との出合い

 近年、同社を取り巻く印刷市場は大きく変わり、中・小ロットの出版物の受注比率が高まっているという。長年手掛けていた輪転印刷は2017年に思い切って中止し、枚葉印刷へのシフトを図っている。枚葉機のラインアップは色数、台数とも以前から充実しており、リソースの集中の一環として先行して製本工程を再編し、19年に複数ラインの中綴じ機を中心とした製本工場を立ち上げている。
 輪転と枚葉の印刷工程は大きく異なる。輪転機ではインラインで印刷から断裁、結束までの製品化が可能だが、枚葉印刷ではさまざまなプロセスが付随する。枚葉紙でページものを生産しようとすれば、印刷前に粗裁ちし紙を仕立て、先刷り面印刷後は反転も必要。仕立てが甘ければ印刷機はストップしてしまう。また、せっかくセットした印刷品質も維持が難しくなる。断裁や折りに向けては正確な紙揃えも不可欠な工程である。大ロットでも小ロットでも枚葉紙の扱いには人手もかかり、煩雑さも付きまとう。
 「ミューパイルジョガー」を導入したのは19年。同社は企画・デザインから印刷、後加工、出荷まで、申し分ないワンストップ態勢を実現していたのだが、河野社長は枚葉紙を扱う工程間に潜む大小さまざまなボトルネックを徹底して改善しようとしていた。「枚葉印刷に集中していけばいくほど、揃えたり積んだりする回数が増える。それにつれて、どんなに省力化を図ろうとしても対策なしではマンパワーも増大してしまう」「搬入された紙は印刷しやすい状態のものばかりではない。そんなときには人手でさばいて仕立てないと印刷機がストップしてしまう」。河野社長は長期的視点で現場の労力軽減と生産性向上を図ろうとしていた。
 河野社長はこうした課題を解消するため、静電気除去用の加湿器と、高性能な紙積み機を探そうとIGAS2018を訪れた。そこで「ミューパイルジョガー」の説明を受けた。「ミューテック機には静電気除去を紙への風入れの際に行う機能があり面白いと思った。紙の揃え方も独特で、針とクワエの振動板により揃えられる。手で揃えるのと同じ原理で、すんなり納得できた」と振り返る。

 

■ 静電気除去エアーがアート紙で効果発揮 ■ 印刷機の停止が減少、品質面でも強みに

 同社の枚葉機6台のうち、「ミューパイルジョガー」による紙の仕立てが行われるのは、菊全の8色機と4色機、それに2色機2台の計4台分となっている。  納入された紙は粗裁ち後、「ミューパイルジョガー」で高積みと紙揃えが行われてから印刷機にセットされる。紙揃え時には静電気除去エアーがブローされる仕組みになっている。  営業と工場を統括する執行役員常務取締役の新谷幸男氏は、「ミューパイルジョガー」の導入後、作業者の負荷軽減と作業時間の削減の両面で高い効果を実感している。
 「特に反転がある場合、作業者は、時には腰をかがめたり、ひざをついて刷本を抱えたりといった作業をしていた。さらにその中で、印刷の不良紙の抜き取りも行わなければならなかった」  同機を活用することにより「作業は上半身だけで、紙を右から左にスライドさせるだけでよくなり、重労働が削減されるとともに、大幅な時間短縮につながった。」と強調している。  また、手積みしたケースと比較すると「まっすぐに程よくエアーの入った状態で仕立てられるので、紙の通りが非常に良くなっている」という。

 アート系の紙で特に効果が高いという。「頻繁に印刷機が停止してしまうような癖の強い紙があるのだが、それがほぼ、止まらなくなっている。静電気除去エアーのブローは効果てきめんだと感じている」。  印刷品質への影響も大きいようだ。「紙粉が大幅に減少している。ブランケットの拭き取り作業が頻繁に発生する仕事があり、1万枚通すのに3回ほど行わなければならなかった が、現在は1回行えば十分だ」。同社では、AMスクリーンの印刷はすべて250線で印刷している。また、FMスクリーンを使った高級美術印刷や特殊な原反を使った印刷物を手掛けるなど、品質を重視した付加価値の高い印刷を展開しており、高精細でピンホールのない印刷物は「品質重視の観点からは効果絶大で、営業の強みにつながっている」と語る。

  

■ 刷本の揃えなどでもフル活用 ■ 「除電済」以外は後工程に回さない態勢に

 「ミューパイルジョガー」導入後の枚葉紙の流れについて、工務部製本課品質検査課長で、技術面を統括する技師長も務める井上雅恵子(ちえこ)氏に説明してもらった。  現在、印刷前の工程では、粗裁ちと高積みのそれぞれの担当を設置している。粗裁ち担当者は刷本の化粧裁ちも担っているという。一方の高積み担当者は、印刷前の紙の仕立てと、刷本の加工前の紙揃え、不良紙の抜き取りなどを行っている。さらに、計数の必要のない印刷物の製品化直前の揃え工程も担当している。粗裁ちと高積みの工程はいずれも製本担当者の管轄となっている。印刷機オペレーターに印刷品質に専念してもらうためだという。
 この双方で「ミューパイルジョガー」を活用する格好となっている。井上課長によると「これにより、製品の滞留がほぼゼロになった」という。「『ミューパイルジョガー』の作業では、綺麗に1パレット積み上がるので、どの工程で紙を扱う場合も効率がいい。通常タイプの紙揃え機も併用しているが、『ミューパイルジョガー』をなるべく止めずフル活用するようにしている」。  枚葉印刷の効率化に関し「ミューパイルジョガー」は社内の標準化の起点としても一部で位置付けられている。「『ミューパイルジョガー』はテーブルの左奥が針に対応している。それを踏まえ、可能な限り、印刷の面付けでも左奥を針にするように統一している。そうすることで反転の回数を削減することができる」というのだ。定期もので特に効果を発揮しているという。  さらに、除電の効果についてうかがった。「紙によっては印刷直前にエアーを通さなければならないものもあるが、ラップをしておけば大体1日は保たれる」と目安を語っている。  「ミューパイルジョガー」で除電エアーがブローされ揃えられた紙には「除電済」と書かれた小さなコーンや張り紙が添付されている。「除電していない紙は後加工に回さないのを原則としている」という。工場内にある紙が今どのような状態にあるのか、コーンや張り紙を見れば全社員が一目で分かり、品質管理や工程管理に大いに寄与している。

■ メリットは「想定以上」 ■ 「目に見えないところで貢献する機械」

 河野社長は紙を「ミューパイルジョガー」に通すことで得られるメリットは「想定以上だった」と語る。  「オフセット印刷にはフィーダーストップが付きもの。1度印刷した刷本を『ミューパイルジョガー』に掛けてエアーをブローするとその分、時間はかかるが、後加工までをトータルで考えると、後加工でのトラブルが減るため所要時間はほぼ同じ計算になる。目先のコストがかからない方がいいのか、お客さまの信頼を得た方がいいのかという比較になる。長いお付き合いを望むなら答えは一つだ」
 また、「近年は印刷品質を問うお客さまが多い。そうした意味でも『ミューパイルジョガー』の存在は大いに営業の差別化としてアピールできる」と強調している。
 ユポなどインキ乾燥に時間を要する原反の乾燥促進を目的に使用することもあるという。「印刷後に『ミューパイルジョガー』でエアーを通すことでかなり乾燥度が上がる。断裁などの後加工に素早く掛かることが可能となっている。印刷当日に加工・納品ができるようになった。自信をもって短納期の受注が可能となった」と営業の幅が広がっているメリットを強調している。
 新谷常務も新たな展開を見いだしている。「コロナ禍に伴い、商品券の需要が増えている。工程としてはオフセットで台紙の絵柄を印刷した後、オンデマンド機でナンバリングの追い刷りをするという流れが多い。オフセット印刷した後に『ミューパイルジョガー』により紙粉やパウダー、静電気の除去を行えば、オンデマンド機への負担もなくなる。これによりハイブリッド印刷が新しい柱として展開できるようになる」とみている。  河野社長は「目に見えないところで貢献する機械だと思っている。現場では『ミューパイルジョガー』がないと作業しにくいとの認識が定着している」と力を込めている。


■ ローテーションで力の弱い女性も稼働 ■ 全社的な効率化の起点に

 工場では18年から月替わりのローテーションを組み、作業者一人一人が複数の機械を稼働できるようにする取り組みを展開している。20人ほどが在籍する製本現場では21年夏現在、2周目を迎えている。  製本に携わる作業者は、断裁、折り、中綴じなどの加工に加え、「ミューペーパージョガー」の稼働も担うが、ミューテック機導入から2年半ほどがたった現在、力の弱い女性でも大きな負担もなく動かせているという。井上課長は「引き続きローテーションで共同作業してもらおうと思っている」という。
 同社では、こうした多能工を育成することで、作業者不在時の機械の稼働をカバーすることはもとより、全社的な効率化に向けて工程を超えた協力の意識を根付かせたい考えだ。
 「ミューパイルジョガー」は粗裁ちから印刷前の紙の仕立て、検品抜き取り、製本に向けた紙揃えなど多くの工程に関連するほか、今後伸びが予想されるハイブリッド印刷でも下支えとして機能していきそうだ。ローテーションが重ねられる中で今後、新たにどんな役割を担わせることになるのか注目される。